2013年11月29日金曜日

30. ハノイへ

30. ハノイへ

考えてみれば、列車でハノイへ行くなんて、ばかだ。
昨日乗ってたおっさんたちも、朝になるとどこかで降りてしまった。チケットがやたらと高かったのは、そういうことだ。サイゴンからどこどこ、どこどこからあそこ、あそこからそっち、そっちからハノイといった具合に、普通は5時間くらいかけて利用する。
だが、私は、終点から終点までだ。5時間かける6倍くらいだ。料金も単純に5時間かける6倍。値下げが効かなかったワケだ。

景色は、なんとなくの田園風景と町の繰り返しいったところだ。無論、今は真っ暗だが。熱心に目をやれば興味深いことも発見出来るだろうが、飽きてしまった。


朝飯は、言われるがままに買ったチキン弁当。ターメリックライスだろうか、ごはんは黄色がかっていて、弁当とは名ばかりだ。食品サンプルのようなフライドチキンがデンと乗っかっているだけである。弁当売りの中年女性は、寝ぼけた私から35000ドンをひったくる様に出て、駅のホームで別の客を探す。

その後は、ひたすら昼寝と読書と歯磨きを繰り返した。

目が覚める度に、向かいの乗客は違っている。
夕方。目の前の乗客は、30半ばくらいの男女だった。なんと、ベッドひとつ分しか予約していない。ガイドブックを見ながらお喋りしている。ぶさいくがうるさいなぁと日本語でつぶやき、再び二度寝した。

8時ころ。
ドリアンのような臭いのする車両を幾つも通過し、先頭車両のあまり綺麗ではない食堂で晩飯を食った。牛肉といんげんの炒めと、牛肉ラーメンを食べ、ビタミン補給にレッドブルを飲んだ。
いんげんは、タラの脂身のように柔らかくまるまる肥っていて、肉の油とよく馴染み美味しかった。
ラーメンも、しょう油だか塩だかコショウだかよくわからないが、散らした青ネギと牛肉が、空腹に染みた。

あと6時間もすれば、ハノイだ。
本も飽きてしまった。
貧困の本、村上春樹、サイゴンを舞台にしたルポルタージュ、早分かりベトナム・ビジネス。
全て、こっちで手に入れた日本語の本だ。

サイゴンを舞台にしたルポルタージュは、とても面白かった。
サイゴン陥落を中心にしたノンフィクション。そばを食べただとか、宿の婆さんが暴力的だとか、将軍の男気とか、北と南の性格の違いだとか、語彙も面白い。

ベトナム・ビジネスは、2006年の発効だ。古い。日本の実力主義に対応する、ベトナム人の毛並み主義というのには笑った。

世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドを読んでいると、日本の自分の部屋が恋しくなる。コーヒーが恋しい。恋人が恋しい。髪の匂い、目つき、肩の丸み、手首、乳房、唇。

いよいよ2月になれば、浮かれても居られなくなる。私は、切羽詰まっている。もう、子どもでは居られない。大人として、働きたいのだ。人間、働くことを通じてしか、人を助けることは出来ない。詰まるところ、人を助けるということは、働くことなのだ。

幸い、私はルーティンワークが好きである。ピックで氷を割ったり、エスプレッソを淹れたり、慣れた動きの繰り返しをしていると、誇りを感じられる。

もちろん、それだけしかやらない、というのは話が違ってくるが。日常生活を支える基礎や柱の如く、単純作業は脳の活性化に一役買ってくれる。


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