2014年1月15日水曜日

97. フィレンツェへ

97. フィレンツェへ
ポチは家に帰りたかった。
寒くて霧が立ち込める雨の世界はもうこりごりだった。家の美味しいご飯が恋しかったし、自分だけの小屋とか撫でてもらうことなどもたまらなく恋しかった。
しかしその反面、家に帰ってまた首輪と鎖を着せられるのかと思うと気が滅入った。首輪を拒否し続けることができるだろうか。自信がなかった。
紫色の土。
葡萄の皮の汁がこたつのふとんに染み込んだ。
アレッサンドロとのミラノは楽しかった。彼はカクタスジュースというレストランで働いている。平日は昼間にバリスタとして。休日は夜にウェイターとして。
彼は気さくだ。
ミラノという街は格別好きにはならなかった。観光として特筆すべきものは多くなく、ハイブランドブティックの並ぶ街だ。アレッサンドロに予定を合わせたために博物館には行けなかった。ダヴィンチの博物館もあった。
彼は元カノをまだ引きずっているて、ハイになったときに悩みを語り始めた。duomo近くのブティックで働き始めたときから、彼女は変わってしまったこと。彼の誕生日に電話やメールすらよこさなかったこと。6年間。
彼は今、電車に乗っている。6人。5人はイタリア人。イタリア語。フィレンツェ。やはり彼はさみしかった。
前の金髪に頼んで、テザリングでインターネットに繋ぐことができた。しかし、ほんの一瞬だった。彼女は回線を切ってしまった。
彼らの低い声は、嫌な感じだった。目の前の金髪は、お喋りだ。一人旅で興奮しているのだろう。うるさい
生きてる、死んでる、悪くない。
イタリア人とインド人は似ているが、イタリアの女は強い。
フィレンツェに着いた。ミラノに比べると、落ち着いている。
カフェでWi-Fiを拾い、ホテルを予約し、チェックインを済ませた後、彼は再びカフェでWi-Fiを拾った。
ロンドン、ノルウェー、日本までのチケットを予約した。
その間に、3組のカップルが音を立ててキスをした。何度も何度も、こちらをちらちら見ながらキスをしていた。人目を気にしないと言うが、気にしているではないか。こんな姿を友達に見せられるのだろうか。
ミラノほど寒くはなかった。何度か小雨が降った。
3ユーロのパニーニを二つたべ、ドーモに行った。寒かった。
宿でメキシコ人の人たちとトランプをした。フレンドリーだ。
彼は嬉しくなった。さみしさは少し癒えた。

96. ミラノ

96. ミラノ
うんこにかび
猫の挨拶ようにチャーオチャーオ言い合うおばさんたちが可愛らしい。
私は人のことを簡単に好きになるのかもしれない。しかし、一度好きになったひとを、再び(?)嫌いになることは苦手である。
人を好きになったまま嫌いになることは可能なのか。それに執着と嫌悪を同時に感じること。
可能性を感じるのか、不可能生を感じるのか。貴女は常に誰かの所有物でなければいけないのか。
投げやりなハーモニカの音楽が、暴力的に情緒を演出する。
何となくそうではないかと思っていたが、やはりハリボテだった。ハリボテにもそれなりの効果があるというものだ。しかし。落ち着かない。
生き霊とは酷い言い草だ。再び死について考える。彼女はよく死をチラつかせた。死は極端な真空状態である。自らの引力ではなく、真空状態によって彼を引きつけようとしたのだ。
苦しい。苦しいが、取り敢えずゴールまでは辿り着かなくては。
敏感だとか、影響受けるだとか、作用するだとか、私の身体はどうなってるというのだ!どうだっていい!
考えるのが面倒だ。代わりに金を払う。
彼は、誰かでありたいと欲すると同時に誰でもなくありたいと欲する。結局のところ、彼は彼であり、私は私だ。
犬に対しては責任を負う必要がある。去勢をしない限り、猫に対しては、責任を負う必要はない。いや、そもそも首輪をしない限り犬さえも責任など負う必要はないのかもしれない。
首輪をしたら最後、我々は餌としつけと散歩の義務を負う。
黒いお腹。言い当てられたような気まずさと、侮辱された怒りのような感情が湧いた。自分の母を生ごみ呼ばわりされるような屈辱。
悲しくなった。
「太陽みたいな人になりたかったのに」
アレッサンドロは、恋人をまだら愛している。捨てられた犬はなんとも惨めなものだ。
エミリオは200ユーロを持って、デパートで新しい携帯を手に入れた。サムソンのスマホだ。iPhoneはその二倍か三倍の値段がした。エミリオは、ゲームが好きだ。
アレッサンドロは、デパートとか、家電量販店とか、イタリアと日本は同じか、と尋ねた。そうだ、と彼は応えた。
アレッサンドロはインドは50年前のイタリアそっくりだと言う。パッションが溢れんばかり、物が、可能性が、やるべきことがたくさん転がっている。

95. ミラノ

95. ミラノ
アレッサンドロは12時まで起きなかった。彼の家族と昼ごはんを食べた。
アレッサンドロは隣人と挨拶。この町のみんなは知り合いみたいだ。
父の役割を兼任した母。
多くを語らない人に弱い。
語らないことは魅力のひとつだ。
私は怖いのです。貴女が心変わりしてしまうのではないか。と。
彼は怖いのである。
さみしいと思うからさみしいのだよ。めをつぶりたまえ。

94. ミラノ

94. ミラノ
皆、顔が濃い。
堀が深くて、髭が濃い。
アレッサンドロを待つ。バスにWi-Fiがなかったが、パブリックWi-Fiがあったので、なんとか連絡を取れた。
アレッサンドロ金持ちだったらいいなぁとか妄想をする。
強すぎる葉っぱ。
私は人との関わりに、恐れを抱いている。
寝ている状態が、人間の根源的な快楽状態であろう。
Dante grazie Alex.
Milan, unlike the traditionally red-terracotta roofed Italian cities, is quite grey, as many buildings are constructed using limestone or dark stones
ミラノは、モダンな町だ。東京とあまり変わらない。
アレッサンドロの働いている店に、エリディオと向かった。ピザを食べた。うまくはない。
ソファで寝た。