2014年1月31日金曜日

109. 千葉

109. 千葉
27
彼の家は千葉にある。
今日、彼は11時に目を覚ました。
駅は、いつも何かしらの音を発していた。プラットフォーム全体に響くうるさすぎないアナウンスや、電子音。発車の音楽。人々は急いで電車に乗る。
不思議なのは、電車に乗ることに急いでいるのは日本の人々だけではないということ。ノルウェー、ロンドン、イタリア、どの国の人々だって、電車に乗り遅れまいと、神経を張っているのだ。
無駄なことを排除して、排除して排除して。
人々はみんなさみしそうに見える。ペットショップのふてくされた犬のよう。きょろきょろと、他人が動く様を目で追う。
I'm not a kid. I ask for a stranger.
日本語は難しい。
日本人ですら、何かを伝えることに苦労をしている。言語であるのに。言語は便利なものであるはずなのに。
いや、日本人が苦労しているのは、言語以外のコンテクストだ。
ボディランゲージは分かりづらく、態度という繊細な形で現れる。そしてそれは大切である。
そういったコンテクストを損なうと、評判を落とす。評判は、社会で失敗しないために非常に大切である。
相手が良い奴が悪い奴かといった客観的な質は問題ではなく、自分が相手を好きか嫌いか。で他人を判断する人もいる。
本当に色々な人がいて、偏見に取り憑かれている。
偏見。偏る見る。見る。
放射能こわいという、人々の意に反して、「ふくしまの米できました」という広告がひとつの皮肉も無く、電車の広告で流れる。
日本だけではない。むしろ、海外において、私は様々な情報を排除し、無視してきた。
しかし、触れるものの一つ一つが初体験という振動をもって彼を響かせため、妙な新鮮さがあったのだ。
そういえば、バスの窓は自分を映す鏡とかいうけど、窓のないトゥクトゥクやリキシャはどうなんだ?
会社説明会は、その会社がどれだけ魅力的か、抱いていた期待を納得させるものだった。
帰りの電車、彼は不思議な感覚に飲み込まれた気がした。
あの頃に、戻ってきた感覚だ。ここはみなとみらい。ここは横浜。ここはJRの車両の中。彼が今まで日本で貯めてきた記憶、偏見、考え方、感じ方。そんなようなもの。空気が薄いのに気付かない感覚。脳の一部が眠っている感覚。トイレの鏡でで髭の生えていないボーズの男を見たせいだろうか。
再び自分が自分ではなくなる感じがして、彼はふと少し落ち込んだ。彼にはひげがあった方が、自分らしく思えた。そして実際、ひげのない彼はひどくナイーブに見えた。
彼は急に恋人が恋しくなった。良い匂いを感じたからだろうか、何もかもが許されない国に戻ってきたからだろうか。この国は彼が、彼の思考を通して感じることを禁止している気がした。主体的に思考することが不可能なのは知っていた。しかし今や、客観性がもっともっと暴力的な恣意性を持っている気がした。
うざったい広告の言語を捉えてしまっては、意味を想起せざるを得ない。恣意性の排除はもっと容易なはずだった。美しさとは無縁のイノセントを気取った雑多な情報が彼の脳に無理矢理意味をぶち込んでくる気がした。他意はない、といった顔でいちいち彼を苛立たせた。
実際、気の利かないうざったいそれらは、非情なことに日常化するのだろう。持たないことを暗黙のうちに否定してくる所有の見せびらかし。
目を奪われる人々。
しかし、それらは客観的に決して美しくない。彼には、それらがひどく滑稽に見えた。そしてその姿は悲しくもあった。
世界観の構築は、自分自身で行うべきだ。
今や彼は、テレビや新聞が構築した世界観を丸呑みしている人々を、軽蔑しさえした。
キャラクター。美しくなく、傲慢なキャラクター。認知されて生き永らえるキャラクター。

108. 東京へ

108. 東京へ
26
10時まで寝た。ウィリーは酷いといいながらクリスマスブレンドを飲んだ。彼もかき込んだ。
ハラルドが彼を駅まで送ってくれた。犬を連れて。
彼は電車の中で、これを書いている。
移動の窓は自分を写す鏡だとかいう。純粋な目になる。肉体と目が一致しないのだ。座っている。なのに景色は動いている。純粋な目だ。
何もかもが、懐かしくなるのだろうか。
500失くしたらしい。8000円以上だ。痛い。
飛行機。
日本に帰るのだ。
左にはネパール人らしき人、右にはロシア人らしい綺麗な女の人。
飛行機は真新しい。
滑走路には雪が散っている。
どこに行ったって、することは同じだった。呼吸して、食べて、排泄して、寝て、起きる。どこに行ったところで。変わらなかった。
飛行機に積もった雪を落としているのだろうか。大きな機械が翼に何かを吹き付けている。
向こうから近づいて来る国、こちらから近づかなければならない国、その違いは、教育ではないだろうか。
ノルウェーの人は、誰もスーパースターになりたいと思わない。スーパースターになりたいと思って、それらしく振舞えば、一流にはなれないだろう。
7年間、イングリは楽しませてくれた。大切なことだ。
乗り換え。モスクワ。誰も英語を話さないし、英語の表記すらなく、2キロ歩かされるとハラルドから聞いていたので、覚悟していた。
飛行機が着陸し、帽子を探していると、右隣の綺麗なお姉さんが一緒に探してくれた。カトリーナだか、そんな名前の人。ロシア人はみんな英語喋れるわよ、そして優しいのよ。と言われた。今回はたかが乗り換えだが、そのうちロシアには来るだろう。嬉しくなってニコニコしていると、マトリョシカのマグネットをくれた。素敵な青い目だった。
実際、空港は分かりやすかった。
ゲート付近には日本人がたくさんいた。きょろきょろと、幸せそうじゃない顔つきだった。
しかし、日本人だけに限らなかった。欧米人も、無愛想で礼儀を知らない人たちが多い気がした。と、彼はここで自身の不寛容に気が付いた。こうあらなければならない、こうすべき、そういった考えが不寛容を生む。
人間のあるべき姿とはどんなだろう。そんなものあるのだろうか。しかし、挨拶やお礼や詫びがあれば、気持ちが良い。
日本人はみんな、知らない人との挨拶の仕方を忘れてしまったような気がする。知らない人から挨拶をされても、気持ちの良い場合はあるのだろうに。
同胞なら、先輩後輩うんたらで苛めないで、仲良くすれば良いのだ。
子どもにゲームを買ってあげられない程度の貧乏は、むしろ好ましいと思う。ダルそうに偉そうに息子と話す。こんなパパ嫌だなぁ。
野暮。
粋。その文化に帰るのだ。
私は常に見られることになるのだ。測られるのだ。
だが、それにも増して、見ることに集中すれば、見られてることを忘れるだろう。
思うに、見られていることを意識したところで、何ら得をすることはない。知らん。もう。
子どもは、ゲームの画面を見ながら父親だか兄に何やら大声で文句を言っている。父親は、……じゃねーよ。という口調でだるそうに何か言った。子どもにFワード使うようなものか
飛行機は遅れた。たかが30分だが、彼はそわそわと圏外の携帯を何度も眺めた。日本が恋しいのだろうか。
いや、帰るところが恋しいのだ。彼はおそらく日本にいたら、オスロに帰りたいとか、インドに帰りたいとか思うだろう。
動かない景色が耐えられないようだった。
知能とは?
論理と仮説。
滑走路を走る光。長い光から光の玉が生まれる様子。街の光。ゆっくりと光を消されたように、太い雲が街を隠した。
仮説とは、存在しないものを存在するものとしてロジックを進めること。
装飾は、魂を感じさせること。
動く窓は、知らぬ間に我々を何処かへ連れて行ってくれる。
頭が痛いときに飲むコーヒーは不味くても美味しい。
Eternal city never change.
垢の浮いたような白くよごれた海。流氷かな。
ドライアイスの煙のように冷たそうな雲。ロシアと日本の間。
飛行機が間もなく着陸する。
どんな街が待っているのだろう。
そんな不安は、もう感じることはない。
ここは、ロンドンでもオスロでもなく、東京なのだ。厳密には千葉なのだ。
ついた。
もう、飛行機が墜落するんじゃないか怖がることもない。
ごきげんよう、東京。
機内食しか食べていないためか、お腹が痛い。
成田空港。恋人が迎えに。
スターバックスでエアロプレス。
みんな日本語を喋っている。変な感じだ。
家も同様に変な感じだった。白黒のぶちのチワワがぴょこぴょこ跳ねていた。彼はチワワが嫌いだった。檻から出してあそんでいた。飼うからにはしっかり躾をすべきだと思い、すぐ構うのをやめたが、相変わらず妹値は犬を甘やかし続けた。実際、犬は彼女たちになついていた。自分の部屋は散らかっていて、居心地が悪かった。
彼は変わった。確実に変わった。しかし、環境は変わっていなかった。旅に出る前そのままの散らかった部屋。ベッドのシーツさえ、変わっていなかった。多すぎる本、服、がらくた、ごみ、漫画。
全てが煩わしかった。
彼は今や、本も映画も服も酒もコーヒーでさえ、必要最低限以上興味がなかった。
風呂の浴槽に熱い湯をはり、しばらくつかってみたが、鍋いっぱいの芋粥に直面した男同様、喜びは束の間以下だった。
さみしいさみしい言ってたころが懐かしかった。mi manchi tantissimoとか言ってた頃が懐かしい。帰りたい戻りたい、この家はひどくめちゃくちゃだ。しかしそのことに、だれも気付いていなかった。むしろ、今ある状況こそ安らぎといった調子で、状況はどんどん悪い方向へ育っていった。
初めに蒔いた種が、矯正もされず、間引きもされず、育ち放題になっていった。びよびよびよ。
だれも目をかけることもなかった。全てはうまく行くだろう。
そんな楽観主義が、気付かぬうちに雑草にまで栄養を与えていたのである。

107. オスロ

107. オスロ
14:21. JAVA
キュウリ、カラメル、ジャスミン、ウーロン。ゲイシャ。
エスプレッソ、チョコレート、ソルティ。
カプチーノ、紅茶のシフォンケーキのよう。
ハラルドは飲み過ぎたためか、やたらとトイレに行った。
カフェブレネリア、エスプレッソハウス、フグレンをまわった。
ピザを買い、部屋でたべた。
バリスタパーティはたくさんの人がいた。カトリーナもいた。日本で会った以来だった。彼女はとても可愛かった。夏に事故で顎の骨を折ったらしい可哀想うに。
ウィリーはおたく。
カフィカゼ。会社登記。
5:47
ねる。
イングリはとても気に入ってくれている。
ハラルドのイビキはすごい。
何か。

彼は、何かしら新しいものを感じ、感動する。感慨深くなる。
雪が降っているとか、物価が高いとか、町並が綺麗だとか。
イングリは彼が驚いてるのを見て嬉しかったらしい。

106. オスロ

106. オスロ
ハラルド。12時起床。
ストックフレッツ、サプリーム、ティム、ど強い酸味。
うんうん、どこも美味い。
ハラルドの家へ。トーマス。
たくさんのルームメイト。まだ少し酔っていて、色々と少ししんどかった。コーヒー飲み過ぎか?
夜。
バックトゥザフューチャー2を見た。ハラルドは2時頃に帰って来た。レゲトンの好きな愛知のペルー人と話す。夢はラッパーらしい。
ハラルドのイビキはすごかった。彼はとても酔っ払っていた。

105. オスロへ

105. オスロへ
リシュケシュのボンバスティックおじさんを思い出した。彼は、フランス人の女性から写真付きの手紙を持っていた。宝物だ、という風に見せびらかしてきた。我々は彼の歌、彼の振る舞いの滑稽さに笑った。ミスタろばろば、ミスタろばろば、ファンタスティック、ビカムボンバスティック、ミスタろばろば、ミスタろばろば。。
ワークショップ、
エチオピア、シルキー、ミルク、ダークチェリー、すごい。
移動。ただ移動すること。止まっては移動すること。移動し続けること。知らない場所へ。自分の領域の範囲外へ、移動すること。
旅の意義は移動することにある。すなわち、移動することは旅そのものなのだ。感動や、ひらめき、出会いは副産物に過ぎない。移動とは、動くことで移り変わること。
では、通勤も旅と言えるか?
おそらくは、通勤も旅と言える。だが、副産物は減る。何度も何度も同じ道を往復すると、何も感じなくなる。草だらけの草原を何度も往復していると次第に道が出来るように、往復に往復を重ねると、ある種のストレス脳内物質が生み出されることはなくなる。ストレス脳内物質が無いと、報酬脳内物質もない。
いや、まて、旅とは、移動を通じてストレスに対処し、報酬脳内物質を得ることなのではないだろうか?
あるいは、初めての経験は全て旅なのでは?
要するに、変わり続けることこそ旅なのだ。脳内の物質はやはり副産物だ。旅は状態である。愛や睡眠に意味がないのと同様、旅にも意味はない。一方通行だが、一辺倒ではない。変わりたい、変わりたくない、旅をしたい、旅をしたくない、好むと好まざるとは関係なく、全て旅だ。
アクセル、ギア、ブレーキ、たまにサイドブレーキ。自分の肉体を守りながら、移動するのだ。
そういえば、別れの挨拶をしなかった。不在に驚くだろうか。多少は。おそらく。
あるものが無いと、驚くのだ。イナイイナイ。バア。無いと不安。あったことに気付いて安心。あるのかないのか分からない不安が解消された途端、喜びの脳内物質が報酬される。快。遊びを通じて、快を学習してゆく。
Be動詞。基本。存在と不在。あるとない。肯定と否定。
飛行機。東へ向かった。ぐんぐん夜になる。倍の速度で夕焼け。夜。
エアロプレス。
恥ずかしい。アジア人は彼だけ。
豆を挽く。とても良い匂い。お湯を貰う。ぬるい。思ったより簡単にお湯をくれた。21日、昨日の焙煎だ。ぬるいこともあって、味は出切らなかった。か弱い味。麦茶のよう。席は13のF。fuck 13というところか。
ミッキーマウス
ドッキリgags
トム&ジェリー
オスロは雪が降っていた。羽毛のような柔らかそうなおおつぶの雪がふわふわ降りてきた。
さながら天使の羽のようだった。子どもが気まぐれに木の実を摘み落として遊ぶように、冷たい空気に踊りながらぽろぽろやってきた。飛行機の翼に落ちると、え、もう終わり?といった具合にしばらくふてくされながら左翼の上で転がってだだをこねた。
オスロの人は、フレンドリーで優しい。
iの家。
iの彼氏。ミートボールうむい。魚もうまい。

100%。効いた!
ゆらゆら

104. ロンドン

104. ロンドン
パレート不均衡の原則は徳を生み出さない代わりに、いかなる損もすることはない。
言い換えれば、誰も幸せにならない代わりに誰も損しないということだ。
Nude
グアテマラ
プラム、ナッツ、焦がしナッツ、少しアンダー。ベリーベリーアーモンド。ナッツチョコ。焦がしキャラメル。甘酸っぱいマスカット。
コロンビア、v60
ジャスミン、烏龍茶、少しオーバー、シルキー、スイートベルモット。豆が10ポンド。たけえ。トルコの焙煎機、toper
Brew Dog TOKYO
エスプレッソのよう。シロップが入っている感じ。チョコレート、ジャスミン、エスプレッソ、プラム、メロン、ピート、複雑!!!度数18.2%!!!
ハードコアIPA9.2%
コーヒーのよう。重く苦く甘い。後味は抹茶。
ピンクグレープフルーツ、りんご、ジン、グレープフルーツピール。
生姜、蜂蜜、ラフロイグ、ジェイムソン、レモンジュース。シナモンで複雑。
エースホテル。
ヒロ、誕生日。
半目。ぼやける視界。描く全ての素晴らしいもの。そうして生きる。正気を忘れ。
クリームパスタ。重い。

103. ロンドン

103. ロンドン
130おろしたポンドがもう20を切っていた。確か銀行には残すところ350ポンド程度。
コーヒーに10
本に10
食べ物に40
移動に30
ホテルに40
納得だ。
コーヒー。底が見えるか見えないか、一センチぐらい。まだ温かく、回すと湯気で白くぼやける。
森の中で協会が目立つように、殺風景な街の歩道の上に切りたての木でできたようなシンプルな横長の腰掛け。エスプレッソルーム。
グレープ、焦がしキャラメル。レモンドロップ。レモンケーキ。マウスフィールやばい。
マンモス。
ゲイシャ。カリタ。お湯を注ぐだけ。1分きっかりの抽出かな?フレーバーが弱い。キャラメリゼの太い味に負けている。冷めてようやく感じられるゲイシャの青リンゴ。しかし、皮ごとかぶりつくような新鮮さはなく、焼いた青リンゴパイのよう。甘く、ボディ。マウスフィールはもう一息欲しい。エイジングが決まらなかったのだろう。味が抜けていた。
TAPグァテマラ。やたらフレーバー。インフュージョンのおかげ!?チョコブラウニーもフワ柔らかトロリ。エスプレッソ。ダブル。とてもとてもフレーバーを感じることができた。すごい。感動的なエスプレッソ。スパイシー。しれっと出しているのが不思議で仕方が無い。
Profr
ナッツ、ナッツ、ナッツ、アーモンド。ホワイトチョコ。
グレープ、ストロベリー。メロンドロップ。
人を感動させる何か。暗闇に浮かぶろうそくの光、厳かに照らされる黒い背景、キリストの絵画。空腹時に食べるパン。コントラスト。
表音文字、英語。広告は必然的に色を帯びる。
クラフトビヤ。ハンドポンプでサーブするIPA。は昨晩のロンドンプライドより格段に美味かった。甘くてフルーツの香りがふんだんに溶け込んでいて、麦とホップだけでつくられているとは思えないほどジューシーでスポーツドリンクのように飲みやすく、かつ身体に染みた。アルコール度数は7.8%と高めで、凍らせたウォッカのようなトロっとした質感が喉を滑り落ちた。
ハーフパイントのリアルエールに含まれたアルコールは、カフェインを取りすぎたために低血圧気味の彼の意識を揺らすのに十分な効果を持ち合わせていた。
+1, sugar addiction
Channel4.com
マテオ。イタリア人。仕事を求めてロンドンへ。28。環境なんちゃらのマスターを持っているが、イタリアの経済がコラプスしたたために公務員の仕事は無いのだという。夢はない。彼と点の決まらないビリヤードをした。キューの先端はガタガタで、玉が酷い方向に飛んでいった。1ポンド。マテオが払った。惨めなゲームだった。
かたや、宿のスタッフたちはロクに仕事もせず、毎日ゲームをして過ごしている。どこから金が湧いてくるのか。勝ち組と負け組の違いを見せつけられた気分がした。
英語が思うように通じない。おかしな発音で早口をまくし立てる彼等に圧倒され、いつにも増してカタコトで喋る。
分からない顔をしてもお構いなしに早口をまくし立てられる。言葉で言ってるんだから、伝わって当たり前という顔をしている。人と人は簡単に分かり合えるという若い勘違いだろうか。あるいは、ただたんに興味がないだけだろう、
旅の意義は、家を持たないこと

102. ロンドンへ

102. ロンドンへ
妙に落ち着いた夢を見た。
朝の5時とかそこら。
何回かアラームが鳴った。二日酔いだった。気の抜けた炭酸水を飲みながら、駅まで歩いた。頭痛。彼の身体ではない気がした。
これでローマもおしまい。いよいよ、ロンドン。外は寒くはなかった。薄黄色いぼんやりした街灯が、汚い街を照らす。永遠の都。
いつになく新鮮な朝。
広い道路、猫、ホームレス、二日酔いでじわり痛む眼球、車椅子をベッドのようにして眠る年老いたホームレス。公衆電話の目の前。彼にとってもまた、新鮮な一日なのだろうか?
おそらく、NOだ。
新鮮な一日とは、変な言い草だ。フレッシュ・デイとでも言うのだろうか?fresh day. 
彼の目覚めが、私の見るであろう一日に導くことは決してない。彼の目覚めは彼に何を見せるのだろう。
深夜特急のあとがきノートが読みたかった。
昨日はワインを2本空けた。
日本人の小柄な女の子と。
もちろん、セックスはおろかキスすらしていない。
私は紳士なのだ。とんだ紳士だ。
バス。
蒸し暑い。
コートの襟が首をちくちくした。服の下でも控えめに吹き出た汗が、肌にセロハンテープを貼っているような不快感を与えた。
いずれ消化されてしまうであろうもやもやした不快感を胸に抱え、不思議な気持ちでバスに乗っていた。居心地の悪さ。
ロンドン。私にとって、日本への帰り道。
バス。郷愁。
空港。ボーディングパスを印刷していないという理由で15ユーロ払う。どういった理由でプリントが必要なのか、何に対して15ユーロ必要としているのか。ペナルティチャージといったところか。あこぎな商売だ。滑稽にも、詰めの甘いバックパッカーは変なところで損をする。詰めの甘い人間は、と言った方が良いだろう。インドで会ったアフロは、今ロンドンにいて着いた初日などは79ポンドのホテルに泊まったらしい。
ヨーロッパは殆ど全てがシステマチックだ。あらゆる色々を「最も合理的な」システムに任せ、人々は処理するだけだ。
人間らしい温もりを感じることは比較的容易ではない。寛容さは、社会のどこかにパレート不均衡を生みだすのだ。寛容さは、邪魔なのだ。悪魔なのだ。
1人の人間を助けるために大勢の人が少しだけ損をすることは、まかり通らない。そういう主義なのだ。
みんなが損をしているのだから、その程度の損は諦めたまえ。君がその損を無しにしようとすると、我々はもっと損する羽目になるのだよ。
ルールを守るのだ。ルールは、承認だ。同意だ。
同意しますか?
しないのだったら、君に市民権はないのだ。
誰も君を待ってくれない。みんな忙しいのだ。みんなって誰だ?彼等だ。彼等って?我々だ。屁理屈はたくさんだ。
時間がないのだ。
否。時間が、足りないのだ。急げ急げ!急がない人間は、我々の社会では、軽蔑に値する。
君だけの夢を見てはいけない。
君だけの夢は君以外の人に、理解されるべきではない。
チンピーニ空港。金髪の女の子が父親の腕に抱かれて泣いていた。見ると、荷物検査の奥の叔母にしきりに手を振っている。別れの悲しみ。
空港内のカフェ、割高かと思ったコーヒーは1.1ユーロだった。0.1ユーロしか割高ではない。これがイタリアで飲む最後のコーヒーだった。
寂しさは癒えた気がした。
癒えたという過去性。それがまた別の寂しさを産み出した。
私には、私がいるじゃないか!
…答えになっているだろうか。
慰め。自慰。嫌な響きだ。
私が人生において必要なのは、生理的欲求の解消と精神的快楽の享受のはずだ。
だが、どうだろう。時々さみしさに取り憑かれる。私の中から産まれる寂しさ。精神的排泄物とでも言ったところか。
飛行機の座席には13がなかった。彼の席は13のFだった。右手の窓からは、エンジンが見えた。
眉毛まで金髪の大柄な男が、酸素マスクの付け方を手話を交えて説明している。口には、笑いを我慢しているような微笑が浮かぶ。
酸素を吸うと、人々はハイになって死を受け入れるという。
人は幸せに死ぬべきだろうか。
飛行機に乗る度、死ぬ気がする。この飛行機は空中で停電してしまうのではないか。
失速しないように、バランスを保ちながら成長する。
彼は何者かになる。
Arrivedelci italia. Bye bye italia.
雲の上は雲だった。濁った水中にいるような、薄い雲だった。その上は、暗い青を身に纏った元々は白い空気がどこまでも続いていた。上から見るイタリアは、雲の苔が一面蒸していた。
窓を通して外を見る。右翼越しの空。西の空。間接照明のような良い色。夜は、頬を染めるようにさりげなく、明るさを受け入れ始めていた。太陽の周りを地球が回っているなんて、今や信じられなかった。彼は、神話を信じたかった。遠く細い雲は空飛ぶ大艦隊に見立てたかった。
太陽が確固たる意思で、毎日朝をもたらすのだ。不思議だが、奇跡などではない。自然そのもの。彼はシゼンという響きは嫌いだった。あるがままという響きも嫌いだった。as it isも少し違う気がした。世界は、世界そのものだった。それは、それそのものだった。
右翼は、体育館の壇上の如く真っ直ぐ硬そうに表面に光沢を帯びていた。
7:32
紙パックから絞り出す林檎風味のジュースと引き換えに、半ぞでシャツの男がカートを持って集金していた。プラスチックで出来た子供騙しの滑り台のようなテーブルに右肘を置いていた彼に、0.5秒ほど集金者が目配せをした。意思がないのを瞬間的に判断し、集金活動を続けた。
外の景色はもう詰まらなかった。機内アナウンスが安いスピーカーから流れた。スクラッチ。
見かけによらず窓はひんやり冷たかった。
ねぼけ。空の上というのが信じられない。
彼は一人のときより二人でいるときよけいに孤独を感じる。だれかと二人でいると、彼はどうしようもなくその男の手に委ねられている。一人でいるときは、全人類がかれに掴みかかるが、差し伸ばされた無数の腕はもつれあって、だれ一人彼のところまでは到達しない。
=
移動すること、ただ移動すること。
迷い犬が飼い主になれる筈がない。
ある種の寛容さを身につけた。
寛容さの無い国に戻る。
はむでんまーけっと
カフェイン
ゲストエスプレッソ。うまし。トマト、ムスカット
味の一方通行、皿の上に逃げ場がない

101. ローマ

101. ローマ
ヴァチカン。
システィナ。有名な絵画以外におびただしい数の絵画。ミケランジェロのムキムキマッチョのキリスト。
現実と夢が、どちらも半透明。オーバーラップ。
ミイラ、骨のアーチ。
まだ死が生きている。
骨に服が着せられている。
肉体の部分が、その部分だとはっきり認識できる。
骨が美しい形を描く。いや、骨で美しい構図を描いていると言った方が正しいだろうか。
背景に賛美歌とキリストのイメージ。
63 queen square, not in kill 
フラートな関係。
ミナミは大学教員でもある父親を尊敬しているようだ。宗教人類学のプロフェッショナル。宮崎駿と呑み仲間だとも言っていた。私のお父さん凄いのよ。と聞こえてきそうだった。

100. ローマ

100. ローマ
ねじまき鳥クロニクルの実写版といったところか。知らない女から電話がかかってくる。全裸になれと言われた。
カプチーノ
12:59、ハウスワイン。
カルボナーラ。卵チャーハンのよう。チーズ。炭焼きチャーシューのような歯ごたえのあるベーコンが美味。
ピッツァはカリカリ。
野菜が食べたい。
ローマは黄色。肌色。赤色。
真実の口は、芋粥と同義に感じた。
手を入れようが入れまいが、どちらでも良い気がした。
彼は一人だったし、イヤホンからはドアーズのthe endが流れていた。行列には中国人の団体客が目立った。至近距離で欧米人がキスを始めた。どういう気持ちでキスをしているのかいささか気になったが、これでいよいよ逃げ出すことは出来ない気がした。
ジムモリソンは母親を犯した。16:22。くもり空。
おもちゃを誰かに取られることを恐れた子供のように、仲間に対して嫉妬して飼い主にへばりつく気の小さな犬のように、男はひたすら寄り添い擦り寄っていた。
女は小柄だった。ジーンズに合皮のジャケットを羽織り、写真をインスタグラムにアップするのに夢中だった。欲のない妹らしい振る舞いだった。
彼はロサンゼルスの女に思いを馳せた。
やって後悔すること。意識的にこれを実行するのは、彼にとって初めての体験な気がした。mr. Mojo risin. 16:31。32。
中国人に写真を撮ってもらった。足を入れたかったが、無理だった。
彼にとって最も詰まらないことは、誰でも出来ることをすることだった。誰もが見ている景色は、急に馬鹿馬鹿しく見えた。
現実味というのだろうか。現実のはずなのに何故か味気ない。不思議だ。
かといって、つくられた現実味は嫌いだった。味が濃くて、簡単に呑み込めてるビビットなハンバーガーのようなもの。何故ならそれらは後味が最悪だから。嚙み応えなく、口の中に入れるや否や、簡単に形が崩れる。そのくせ、歯の隙間にひっついて、口をゆすぐ必要に駆り立てられる。
うっ伏している乞食。がらくたにも劣るゴミを所有し、屋根のあるところなら何処でも寝る。
絶望的に顔を伏せた無気力な彼もひょっとすると、何かを書けば癒しが得られるのではないか。
私が全てを失って、その境遇に甘んじざるを得なくなっても。ひょっとしてら、何か出来るのではないか。
彼は宿に戻った。
ブラジル人の男が新しく部屋に入ってきた。次いで日本人の女。
3人でピッツァとワイン、パスタを食べに出かけた。
トレビの泉、パンテオンやらも散歩した。
宿に帰ったのは12時ごろ。
女は、ゆっくり入りたいという理由でシャワーを先に譲ってくれた。
彼は、シャワーにある石鹸を勝手に使うつもりだったが、あまりに良い匂いがしたので思い止まった。恐らく、勝手に使ったことがばれてしまうだろう。メロンとヴァーベナの良い匂いだった。
彼はその後2時間かけてロンドンの宿探しをしたが、iPhoneの不具合で全く捗らなかった。
日本にいる恋人とは2日ほど連絡を取っていない。彼女では無いのだから。
このまま覚めてしまえ。