2013年12月31日火曜日

82. ブダペストへ

82. ブダペストへ
美しいソフィアの街ともおさらば。
来て良かった。とても美しかった。わざわざ来るとなると結構面倒な場所だ。
朝6時に起床。たっぷり9時間寝た。夕食にでたビール一杯が、眠気を誘ったのだ。
ロビーで40分瞑想した。どうしてもあと20分が耐えられない。痛みは無い、気が散ってしまう。
インスタントコーヒーにたっぷり砂糖を入れ、ミルクを加えて飲んだ。
宿のスタッフがフレンドリーだったおかげで、少し感傷的になりながら宿を後にした。
昨日行くはずだった、バックパッカーズインとシスターズインは、潰れてしまったらしい。そして、この宿ホステル・モステルに引き継いだという。昨日の3時間の宿探しは全くの徒労だったわけだ。
東南アジアでの宿探しは汗だくになりながら。東ヨーロッパの宿探しは凍えながら。種類の違う辛さだ。
トラムに乗り、バスターミナルへ。
8:00
バス。自由席のようだ。後ろから二番目の席。隣には、賢そうな英語の喋れない青年。もう30だろうか?美味しそうにみかんを食べている。後ろには、アホなアメリカ人を象徴したような、ダミ声ハードボイルド気取りの猿二匹と、その隣に全く関係のない女性。女性はウザがっていた。彼らは、新聞売りを馬鹿にしたり、ビッチやブルシットを連発して、仲間意識を高め合っていた。どの国にもボキャブラリの乏しい人間は、そういった類の言葉を使うしかないのだ。息の臭い片方はあーむ、というのが口癖だった。ダミ声はアニッチャーを思い出させた。なぜこいつはダミ声か疑問に思い聞き耳を立てていると、ふとした拍子に地声になるのが分かった
その地声が、実に弱々しい。女性のいる手前、カッコつけているのだ。虚勢のダミ声君は、処理出来ない性欲を抱え今日も悶々とタフを気取り続けているのだ。
木でできた犬小屋をつくりたい。
そういえば、新しい言語を学ぶことは新しい考え方way of thinkingを得ることだ。とファビオは言った。
そうかもしれない。
英語を話す時、日本語風の考え方より、英語風の考え方のがすんなり行く。そっちの方が早い。
余計なレトリックもいらない、適切な言葉を使うしかない。
しかし、この思考プロセスは慣れない言語だからなのでは無いだろうか。慣れてないがために、最短ルートを辿る。
小学校から家までの道は、よく寄り道をした。
だが、知らない駅から知らない目的地まで行くとき、地図で最短距離を探す。
新しい言語を学ぶということは、そういうことなのだ。
移動中。それも自分の足を動かす移動ではないとき。私の肉体は移動しているが私の身体は動いてないとき。私は純粋な眼になる。そして、色々なことを考える。
皆そうである。まさかバスや列車、飛行機に乗りながら筋トレする馬鹿はいない。
身体を動かさないことが与える精神的影響。
景色を見れば、思い入れを感じる。葉が落ちた丸裸の木々、霜に犯されて真っ白になった枯れ草、どっぷり立ち込める霧、浅い角度で射し込む枇杷色の光、意味もなく朽ちた建物、穴の空いた壁から中の階段が窺える、詰めたそうな鉄塔、電線、霧のためか電柱は鼻水を垂らしたように湿っている。メーカーズマークの官能的なレーズンの香り。枯れ木に引っかかる金箔の束。強い風が吹くまでいつまでも引っかかっている。
しかし、隣の人と話すとどうだろう、私は私の身体に戻って来なければならない。
寒い、犬の吐く息さえ白い。
私の英語はまだ根が浅い。
SF
想像を遥かに超えた現実。
爆発。
私は、私に興味がある。私の記憶に、私の感覚に。同時に、私と同じように、彼・彼女自身に興味がある人に興味がある。彼らのやり方で、彼らを知ろうとする人間に興味がある。
セルビアの国境を越えたレストランで、なにやら美味しいパンを食べた。20ユーロでお釣りを貰った。10ユーロと5ユーロ、硬貨3枚。しかし、今になって見てみると硬貨は2ユーロが2枚と1ユーロ1枚。私はただ飯を食ってしまったのだ。さくさくのパンだ。
イーグルスのナイーブで生ぬるいノスタルジアが好き。
昨日私は、サブカル野郎と言われた。メイン・カルチャー野郎よりはマシだろう。
セルビア、こちらの岩は薄いねずみ色だ。土は黄色。太陽は白味かかった銀色。
車内のモニタには、ハードボイルドなオズワルドの映画映っている。雑なアクション映画らしい効果音。肉を切り裂く音。木綿を引きちぎる音に似ている。macheteと言う映画らしい。いや、quick drow?音は雑だが、カットが激しく構図もそこそこ楽しめる。アクションは馬鹿馬鹿しい。古い女のトラウマをセックスで乱暴に忘れた。実にコミカルに。
これは、おそらくアレだ。ロバートロドリゲス大先生の作品だ。間違いない。乞食のような小汚い男が、ジェームズボンド顔負けの働きっぷりを見せてくれる。弾丸の雨の中を車が爆走し、血が吹き出し、男女共に猿のように歯を剥き出して小競り合う。美女が、最新兵器が、刃が、臓物が、爆弾が、戦車が、ヘリコプターが交差する。素晴らしい馬鹿馬鹿しさ。この映画をチョイスするバス会社ユーロツアーズの懐の深さ。
岩山。つくりものみたいな石山。ところどころ苔が張り付き、垢すりみたいに白い石の大きなやつ。ところどころ、びっしり緑が張り付く。幽霊屋敷の壁によく生えてるアレだ。こいつらは、霧と霞を食べて生きてるのだ。
預言の国、テープ。会話。テープと会話。予想していたかのように、適切な言葉を返して来るテープ。ユーモアがあり、皮肉も言う。楽しいテープ。臨機応変なテープ。知らなかったことを分かりやすく語ってくれるテープ。悩みを聞いてくれ、相談にも乗ってくれるテープ。毎日、一時間テープと会話する。テープの声は男?女?早送りは禁止だ。その時のテープでなければ、私のためにならないらしい。
平和とは、なんて弱々しい響きだろう。ピース然り。Love andが無ければスローガンとして物足りないのだろう。Be -fulが前後になければ、ゴエンカもバイブレーションを感じることは出来なかったのだろう。
寝ると、身体は無意識任せ。
たくさんの役割を自在に味わうことと、自由であることは違う。
心臓に埋め込まれたリモコン。電波を出し続ける。宿主が死ぬと、電波が止まり、庭が粉々に砕かれる。宿主は、庭を守りたい人々のために一生かけてそこで贅沢をする。庭から一定以上離れても、庭は壊れてしまうからだ。宿主は、庭の主人であると同時に庭の奴隷でもある。
バス移動に見える鉄塔が好きだ。
ベオグラード。ここはセルビアの都。赤みがかったオレンジ色の屋根が連なる。残念ながらこの街は通過だ。
セルビアを出国する際の国境では、バス内でパスポートのチェックが行われた。パスポートを係に持って行かれ、バスで待機だ。
パスポートの顔が似ていないことで、係員が訝しげな顔で私の顔を何度も見た。思わず笑ってしまい、ムッとされた。
結果、私のパスポートだけダブルチェックが行われることになった。ここで変に疑われて、出国出来なかったらどうしようと思い、安心して本が読めなかった。
国境は無事越えられた。
ハンガリーに入国だ17:17
辺りは真っ暗だ。夜が長いのだろうか。
口内炎が酷い。舌先が荒れている。映画が終わった。よく分からない映画だった。立て続け3本だ。トルコで買ったクッキーを食べた。麦のビスケット。やけに美味かった。
そういえば、変な夢をみたのを思い出した。線路近くのマンションで走り回る。何かに追われていた。電話、この電話番号は存在しません。存在しません。存在しません。存在しません。存在しません。なんとも絶望的な口調で、携帯の口座が閉まってしまったことが告げられた。ありません。だったかもしれない。
19:47
ブダペスト。都会だ。バーガーキングがある。後ろの猿がimpressiveと言っていた。
いたるところで美男美女がチュッパチャプスしている。
カルカッタで買った綿のベストに、ダージリンの赤いマフラー、バックパックに濡れたTシャツをぶら下げているボーズ頭のアジア人は、少しだけ嫉妬とコンプレックスを感じる。
メトロ車内の壁は、黄緑色。薄汚い。
ハンガリー。人種が変わった印象だ。ブルガリアは芋っぽかったが、ザ・ヨーロピアンって感じだ。
エスカレーターが早い。
乗り換えの駅。太っちょな作業服のおっさんに助けてもらった。ありがとう、と感謝を告げ、お互いいい気持ちになった途端、目の前にカップルが現れ、キスを始めた。お互いため息をついた。
メトロ2は、綺麗な車両だ。
街を歩く。凄まじい豪華さ。
やはり寒い地域は、内と外の区別が厳密である。暖かい国では、隙間風はむしろ心地好い。こちとら、死活問題だ。だからこんな石造りの立派な「家」ができたわけだ。
イージージェット
ライアンエアー
ユーロスター
宿を探せど、ヘレナゲストハウスは見当たらなかった。おかしい。タイマッサージ屋しかない。どう見てもここだ。もしや、潰れたのか…
仕方なく、ホステルの文字を目掛け、入った。日本人もいた。
明日、ここを出てウィーンで年越しをしようと、バスを探した。ネットで2時間ほど探したが、満席らしい。ウィーン交響なんちゃら団の新年の歌声は気になったが、心地好い温泉やドナウ川も捨てがたかった。ウィーン行きは諦めて、ここに数日泊まることにした。
10:10
レストランで、クリームパスタを食べる。辛口の赤ワインとセットで700円。もう無意識にルピー換算をすることは辞めているのに気付き、ハッとした。しかし、700円でインドで何が出来るか、意識しなければ思い出せないのも事実だった。
とりあえず、うだうだ考えるのは止めて目の前の食事にありつくことにした。バジルとオレガノの風味の効いた、美味しいパスタだった。麺は舌で噛みきれるほど柔らかかったが、閉店間際に無理を言ったことを考えると、それでも美味しかった。インドのインスタントヌードルよりは遥かにマシである。
宿に戻ると、明日は満席だと言われ、それから3時間ネットで宿探しが始まった。
くたびれた。
スーパーで買ったオイルサーディンのせいで、口の中油っこく、むかむかした。
目の前で、小綺麗な格好をした日本人2人組がネットで鉄道探しをしていた。
すると外人が彼らに話しかけた。何とも、こちらにはシカトだ。うーむ、悲しい。軽く挨拶したが、なにやら向こうが気に入ったらしい。やはり小綺麗な格好をするべきか。髭を剃るべきか。
見る世界から、見られる世界へと来てしまったのかもしれない。
いや、私の表現方法が通用しなくなってしまっただけかもしれない。
幸い宿は取れた。
よかった。

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