2014年1月11日土曜日

92. ウィーン

92. ウィーン
Anton lutz
近付けばちかづくほど気付かされる印象派。
Erika Giovanna Klien
独特の滑らかさ
見るものの立場を揺るがす対象。幾層もの意味を内包する対象物。平面上に立体。
クリムト。接吻、接吻、接吻。甘ったるい接吻。優しい男の接吻。少し年老いて見える男と女。成熟した男と女。罪もない子どものように抱きあう。
彼は泣きたくなった。
彼はクリムトのその絵画に、別の思い出を探っている。彼が愛した女。そして産まれた子どもたち。接吻をしている彼は何れ逃げてしまうのだ。女の恍惚とした柔らかな閉眼からは、そうした運命を知らないナイーブさが伺える。
2人の甘い接吻に、そうした悲しい運命を読み取ってしまうのは、彼の過去、彼の生まれる前の出来事が影響しているのかもしれない。曲線が発する不協和音にえもいえぬ不安感を覚えた。
我々は生きた果物を食べ、死んだ動物を食べる。花の匂いを嗅ぐ女は官能的。
絶望。救いを求め、女に救いを求め、パラノイア。
ウィーンの冬は曇り空。醜い小人を見てしまったかのような居心地の悪さ。光が強ければ、それだけ一層影も強くなる。神も悪魔も滅多に姿を現さないこの地では、人は神を怖れるというよりもむしろ、
エレベーターに乗ると、毎回違う匂いがする。体臭や口臭や食べものとか香水の匂い。
前に乗ってた人はどんな人なんだろう。残り香からすると、自己主張の強い人に違いない。独りよがりな妄想に過ぎないが。
茄子と玉ねぎのトマトソースパスタをつくり、食べた。部屋に戻り、ツイッターやらFacebookやらインスタグラムやら、ブラウズした。何かを満たそうとしたのだ。それらをすることで、何かが満たされることは滅多に、いや、絶対にないことは経験上知っているのだが、彼はやった。この試みが別の何かを無駄にしていることも、知っている。だが、楽観的に試みた。
ストレスの解消と言いながら酒を飲むことは、根本的な解決にはなっていない。ストレスに別の欲求を上塗りすることで、ストレスの存在を隠しているだけである。
彼はシャワーを浴び、その後、ベッドの上で一時間瞑想した。足に痛みが感じられた。瞑想は彼を多少すっきりさせた。
外の世界を見るとき、誰かが私を笑っていようと、猿が笑っている。と認識すれば、怒りを感じることもなく、むしろ愛おしさを感じることができる。

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